――まずはおふたりが作品に関わられることになった経緯をお聞かせください。
岸田:
「最初にお話をいただいたのは、今回プロデュースを担当されている永谷さんからのメールでした。実はそのメールにはあまり詳しいことは書かれておらず、抽象的な内容というか、印象としてはアヤシイ感じでした(笑)。ただお互いが知らない同士で、いきなり詳細なメールというのも双方にリスクがありますから、それが普通なんですけれども。個人的にはとても興味があったので、何回かメールをやりとりした後、一度お会いすることになったんです」
関口:
「私はプロデューサーの堀川さんから、よろしくと(笑)。岸田さんがプロットを読まれたときは、タイトルもまだ『ぼんぼりの宿』という、ちょっと地味目な仮題でしたよね?」
岸田:
「はい。実際に堀川さんと永谷さんにお会いして、プロットを読ませていただいたのですが、これは地味なのがきたなと(笑)」
関口:
「それでも引き受けようと思った決め手はどこだったんですか?」
岸田:
「単純に堀川さん、永谷さんの説明がとても面白かったんです。まず『true tears』を引き合いに出され、あれは“大映ドラマ”(*1)を目指して作ったんだと。そして今度は情熱、青春をテーマにして作りたいという説明でした。確かにプロットは地味でしたが、昼ドラや朝の連続ドラマシリーズのような印象があり、これはかなり面白くなりそうだなと。またキャラクターも、『いわゆるアニメ的な個性や特徴がなくてもいいんです』とおっしゃっていただけたのが、非常に魅力的でした」
関口:
「確かに『花いろ』(*2)、というかピーエーワークスの作品は、一般的なアニメーション作品の立脚点かはらちょっとズレているのかも」
岸田:
「普通ならば、まず売れ線がこういうもので、そこにいろいろとテンプレ的なものを乗せていくと思うんです。でも『花いろ』では、“こういうことがやりたいんだ、それをアニメに乗せたら面白いんじゃないか!?”というのがハッキリしていました。僕がそれまでアニメ業界に抱いていたイメージや、体験してきたこととはちょっと違っていて、そこに惹かれたんだと思います」
――実際に製作がスタートして、おふたりは2010年の6月に初めて会われていますが、お互いどういう印象を持たれましたか?
関口:
「私は堀川さんから『イケメンですよ』って予備知識を入れられていまして(笑)。それで実際にお会いして『本当にイケメンだ!!』って。オーラもありますし、役者もやられていたんですよね?」
岸田:
「いや、もう本当に勘弁してください。イケメンじゃないですし、そんなにハードルをあげられると初対面の人に会うのがホント嫌になりますから(笑)。役者というのも昔の話で、今はもうやってないですから」
関口:
「でも役者をやられていただけあって、いい声していますよね。描かれる絵もそうですが、ご本人も存在感のある人だなって」
岸田:
「僕は関口さんのお名前をうかがったとき、まずネットで確認しました。仕事で関わる人の名前をすぐに検索するクセがあるのですが、ピーエーワークスさんのホームページに顔写真が載っていて」
関口:
「唯一、出てしまった写真ですね」
岸田:
「本人を目の前にしてアレですけど、すごいお綺麗な方だなと思いました」
関口:
「まぁ。親族一同に自慢しちゃいますよ。イケメンにいいこと言われたって(笑)」
岸田:
「あとは独特の空気を持った方だとも思いました。いろいろとお話をさせてもらって、作品や画と向き合う気持ちを内に秘めた感じというか、オーラがあって、偉そうな言い方ですけれども信頼できる方だと感じました」
関口:
「キャラクター原案の方にそう言っていただけると、とても嬉しいです」
――『花咲くいろは』はオリジナル作品になりますが、岸田さんが一からキャラクターを作るうえで、何か決められていたことはありますか?
岸田:
「特にコレということはないのですが、絵を描くとき、線や色を塗るタッチなど手数を増やしていくのが好きなんです。でもアニメはその逆で、なるべく単純化されたシンプルな線で、かつ色もあまり使わないというのが基本。そこで今回は“アニメの手法に近づけながら、自分の個性を残せないか”ということを考えながら描きました。そのほうがアニメになったときにも、僕の絵としての違和感も少なくなりますからね」
関口:
「原案を見たとき、岸田さんがどれだけこちら側に歩み寄れるかと、気を使ってもらっているのが非常に伝わってきました。それに応えるべく、こちらとしても岸田さんの絵の魅力をなんとか残すように試行錯誤しました。実は撮影さんの処理で、ホホブラシ(*3)も以前よりも簡単に乗せられるようになったんです。以前だとレイヤーをものすごく分けなきゃいけないような作業があったんですけど、今は一枚の画でいけるらしくて。やはり岸田さんの絵にはホホブラシは外せないですね。これがあるとないとでは説得力が違います」
岸田:
「関口さんをはじめ、スタッフのみなさんには本当に感謝しているんです。とても頑張ってもらっているというのは、あがった画を見れば一目瞭然ですから。これまで原案とアニメのキャラクターデザインは、違ってもいいんじゃないか? というか違うのが当たり前だと思っていたんです。でもキャラクター原案とアニメのキャラクターは、なるべく近いほうが嬉しい方が多いんですよね」
関口:
「そうですね。本来はキャラクター“原案”なのでキャラクター“デザイン”とは別なのですが、最初から違うものだと考えてやるよりは、キャラクター原案とキャラクターデザインの親和性がいい状態で維持できれば、作品の質もよくなると思います」
(*1)大映ドラマ…大映テレビが制作した実写ドラマで、1970年代から1980年代にかけて放映されたものを指す場合が多い。
『スチュワーデス物語』や『スクール☆ウォーズ』など多数のヒット作が生み出された。
(*2)『花いろ』…『花咲くいろは』。スタッフ間では、『花いろ』と略すことが多い。
(*3)ホホブラシ…メイクでいうチークのこと。
喜翆荘初期の初期デザイン案。この頃はまだタイトルが『ぼんぼりの宿』だった。
緒花のホホブラシ指定。バストアップ以上の大きさの場合、ホホブラシが入る。