――『花咲くいろは』では音楽プロデューサーとして、オープニング、エンディング、挿入歌などさまざまな音楽を手がけている斎藤さんですが、そもそも『花咲くいろは』に携われることになった経緯を教えてください。
斎藤:
ピーエーワークスさんとのお付き合いは、約4年前の『true tears』からになるのですが、『true tears』のプロデューサーであり、『花咲くいろは』でもプロデュースを担当されている永谷さんに声をかけていただいたのがきっかけです。
――永谷さんとは『true tears』の前から一緒にお仕事をされているんですよね。
斎藤:
そうですね。かなり長いお付き合いになります。その関係もあり『true tears』の仕事をいただいたのですが、その時の音楽がピーエーワークスの堀川さんにも気に入ってもらえたようで、『CANAAN』や『マイの魔法と家庭の日』『万能野菜 ニンニンマン』でも音楽を担当させていただいて、今回の『花咲くいろは』でも声をかけていただきました。
――そう考えるとピーエーワークスさんともかなり長いお付き合いですね。今やなくてはならないという感じでしょうか?
斎藤:
ありがたいです。恐縮ですし、光栄です(笑)。でも相性がいいなというのは感じています。ピーエーワークスさんの現場はギスギスしていなくて温かい、とても居心地がいい。それに堀川さんも、お金儲けのためにアニメを作るのではなく、いい作品を作ろうという気持ちが強いと思うんです。その熱意が現場にも伝わっているのだなと感じています。
――『花咲くいろは』で新たにチャレンジされたことはありますか?
斎藤:
一番のチャレンジは、この作品がメジャーデビューとなるnano.RIPEを起用したことです。実はこれまで携わった作品で、その作品がメジャーデビューとなるバンドと一緒に仕事をしたことがないんですよ。でもメジャーデビューという前向きなエネルギーを持ち、上昇志向にあふれたnano.RIPEは、この仕事に真剣に取り組んでくれましたし、その気持ちが制作サイドにも伝わって、いい相乗効果を生み出したと感じています。バンドの若いエネルギーをアニメに投入するというのが新しい試みでしたね。
――挿入歌も多かったと思います。
斎藤:
実は、それは堀川さんからお願いされたことでもあるんです。音楽制作の立場から言えば、挿入歌が多ければ多いほどたくさんの方に聴いてもらえますから、できるだけ使ってもらいたいんです。ただ作品や監督によっては、セリフと被ってしまうので使われないことも多いんですよ。でも今回は依頼されたということもあり、演出にあわせた曲作りなどもして、遠慮なく作らせていただきました(笑)。
――全話違う挿入歌を依頼されるなどということはあるのですか?
斎藤:
依頼をされたことはないのですが、こちらからお願いしてチャンレジしたことはあります。その時は監督やプロデューサーさんに、使わなくても結構ですので全話分の挿入歌を作らせてくださいと、毎週納品していました。
――そんなに作れるものなのですか?
斎藤:
その作品では最初にシナリオを全話読ませていただいて、自分だったらここにこういう挿入歌を入れるな、と妄想しながら作っていました。1クールの作品だったので13曲作ったのですが、実際に使われたのは2、3曲でした。でも、後日イメージアルバムとして全曲リリースしています。自分で言うのも何なんですが、そのアルバムの売り上げがかなりよかったんですよ。それはストーリーに沿って曲を作っていたので、アニメを見終わったファンの方が曲を聴くと、「あ、これはあのシーンっぽいな」と思い出していただけたからだと思います。またブックレットにも、「この曲はこのシーンを想定して作ったものです」と解説を入れ、13曲を通してひとつの作品を振り返れるように構成にしたこともよかったのかなと。その発想が『true tears』『CANAAN』『花咲くいろは』などのイメージソングアルバムに繋がっているんです。
――いつかは全話に挿入歌が入ったバージョンの『花咲くいろは』も見て見たいです。
斎藤:
機会があればぜひやってみたいですね。
――少し話題を変えて、斎藤さんのプロフィールをお聞きできればと思うのですが、小さい頃から音楽業界に興味を持たれていたのですか?
斎藤:
音楽は人並みに聴いていましたが、音楽の道に進もうとは思っていませんでした。それこそ音楽業界を目指したのは大学生の頃なんです。
――そのきっかけは何だったのでしょう?
斎藤:
長い話になってしまうのですが……、実は中学時代には空手部、高校時代には柔道部に入っていて、大学に進んでからも柔道を頑張りたいなと思っていたんです。でも入学してから半年ぐらいした時、受身に失敗して大怪我を負ってしてしまい、これは続けられないなと諦めたんです。そこで初めて柔道部員以外友達がいないのに気付きまして(笑)。大学って1年目からサークルなどに入っていないと、なかなか友達ができないんですよね。友達もいないし、しょうがないのでファーストフード店でアルバイトを始めたんですが、頑張りすぎてあと一歩で店長になるところまできてしまっていたんです。
――そのまま続けていたら、もしかしたら飲食業界に進まれていたかもしれないですね。
斎藤:
それはそれでよかったのですが、僕の中で大学生は友達と遊んで、恋もして楽しく過ごすというイメージがあって、いきなり就職となってしまうことに対して、本当にこれでいいのかと悩んでいたんです。その時友達が聴かせてくれたブルーハーツの曲に、「周りのことなんか気にしないで、自分の好きなことをすればいい」というような歌詞があったんです。それにすごく胸を打たれて、そうだよなって。そこから気持ちが楽になり、性格も前向きになってすべてが上手くいくようになったんです。
――前向きになれたからこそ、世界が広がったんですね。
斎藤:
本当にその通り。それまでどちらかと言えば病弱で、中学生の頃には十二指腸潰瘍を患ったりしていたナイーブな少年だったのですが(笑)、音楽で開放されてからはそれがケロっと治ったんです。“音楽って何てすごいんだろう!”、自分も人を勇気付けたり、元気にしたりする仕事に携わりたいと音楽業界に進むことを決意したんです。
――ご自身でバンド活動はされなかったのですか?
斎藤:
友達とやっていたこともあるのですが、これは自分に向いていないなと悟りまして(笑)。それならば裏方になろうと、レコード会社に入りたいと思うようになったんです。