――『花咲くいろは』のシリーズ構成を岡田さんに依頼した経緯をお聞かせください。
堀川:
「最初から監督は安藤(真裕)さんと決めていて、その安藤さんから、また岡田さんと一緒にやりたいと希望があったんです。それと『花いろ』は比較的地味な舞台の中でも輝いている、イキイキとした女の子のキャラクターが欲しくて、そういうヒロインを書いてくれる人というと、やはり岡田さんしかいないなと」
岡田:
「私が初めて『花いろ』のことをお聞きしたのが『true tears』の打ち上げのとき。堀川さんから、やってもらいたい作品が二つあると。その一つが『CANAAN』で、もう一つが『花いろ』だったんです。で、どちらも監督は安藤さん。私は『true tears』の4話や7話など安藤さんに担当していただいた回がすごく好きだったので、『ぜひ一緒にやらせてください!』と、ふたつ返事で引き受けたんです。安藤さんとはまず『CANAAN』でご一緒させていただくことになりました。刺激的なお仕事だったので、『花いろ』のことは忘れかけていたのですが……ある日いきなり、堀川さんから『CANAAN』が終わったらやりますよと」
堀川:
「当初は『CANAAN』の前に『花いろ』をやるつもりだったからね」
岡田:
「具体的に話を聞いてみたら、実はハードルがすごく高い作品だということがわかってビビりました。まず堀川さんに言われたのは、仕事を題材にしたオリジナル作品だと。それも“ピーエーワークスの若いスタッフたちが、仕事を楽しいと思えるようになるアニメを作りたい”ということだったんです。ある意味、あまりにも斬新すぎる企画に呆然となっちゃって。でも私はこれから先、こういう出発点のアニメをやらせてもらえることはあるんだろうか? って……」
堀川:
「もしかしたらこういう作品は二度と作らせてもらえないかもしれないよね」
岡田:
「その台詞を堀川さんが言うな、って感じですが(笑)。しかも、それがお説教ではなく『女の子たちの青春ドラマ』として成立するようにしたいということだったんです。本当に、ピーエーワークスでなければできない作品だし、堀川さんという社長でなければ生まれることのなかった企画だと思う。だからこそ難しいけれど楽しんで書こうと思ったし、楽しむためにはストレートに自分の気持ちをぶつけていこうと思いました。堀川さんと安藤さんだけでなく、キャラは関口さん、ライター陣には西村さんも入っているし……勝手知ったる仲というか、あんまり飾る必要もないかなって」
堀川:
「ほかの現場ではもっとおとなしいの?」
岡田:
「私としては、社会人として常識的にやってるつもり……なんですけど、どうなんだろう(笑)。でも、『その現場で求められる自分』ってあるじゃないですか。調整役であったり、突破役であったり。ピーエーワークスさんの場合は、堀川さんが私に、我を全開にすることを無言で強要するんですよ。だから、仕方なくそうしてるんですけど(笑)。堀川さんにパワフルだと言われるのも、態度が大きいこともあるかなって」
堀川:
「確かにそれはあるかも(笑)」
岡田:
「それを許してもらえるからこそ、皆が本気でぶつかりあえて、その作品のもつ正解に早く近づける気はするんですけどね。世間で言う正解とはちょっと違うかもしれないけど(笑)。正解への距離が短いと、周りが見えなくなるし、色々とえぐりすぎてしまいがち。でも、良くいえば現場の熱がそのままこめられた、真摯な作品になると思うんです。それはピーエーワークスさんという会社の磁場みたいなものかも。もちろん私が参加させていただいた作品しか知らないですけれども、ほかの会社とは違った魅力があると思うんです」
堀川:
「そう言ってもらえると嬉しいな。でも正解に早く近づくのは岡田さんの実力だと思う。これだけたくさんのシリーズ構成を抱えていて。どこにその力があるのだろう? と思ってしまうけど、それはもともと持っている資質、馬力、閃きでできるものなんじゃないかな。寡作なライターは、悩んで絞り出してポタッと落ちるものを紡いでいく感じだけれども、それではとてもこれだけの仕事はこなせない。岡田さんは天才肌というか、どんどん溢れ出てくるアイデアを形にしているような気がするな」
岡田:
「そんなことないですよ。いつも苦しんで、壁に頭を打ちつけまくってます(笑)」
堀川:
「でも岡田さんの書く本って、頭の中の引き出しから出したものではない、今までの人生経験から生み出されるようなものがあって、それがすごくむき出しに感じるんだよね。テクニックだけで書いていないから、本の中でキャラクターが生きている部分に繋がっていると思う」
岡田:
「その点で言えば、『花いろ』が“お仕事モノ”だと聞いたとき、自分の中で経験値が少ないなと思ったんです。ずっとフリーでやってきてしまったので。それで今回、ピーエーワークスさんの若い子たちを、こっそりウォッチさせてもらいました。愚痴とか、社内の人物相関図とかもそれとなく聞きだしたり(笑)。それがあったからこそ書けている部分もあるかなと」
堀川:
「岡田さんってどこか人を惹きつける力があるよね。『true tears』の最初の頃僕は岡田さんとの距離をうかがいつつ接していたけど、岡田さんはすべでをさらけ出して人と向かい合っているように感じられて、それが魅力なんだと思うな。それで反省したんだよね。岡田さんが真っ直ぐに向かってくるのなら、こちらも体当たりでぶつかっていかなければ失礼だ! って気持ちが生まれたと思う。それから、普通は逆の立場なんだけど、こういうものが視聴者に求められているという視点を僕よりも意識していて、僕のマイナー暴走(自覚なし)をコントロールしてくれているから安心して委ねられるんだよ」
岡田:
「いやいや。他の現場では『岡田さん、こんなの売れないよ!』っていつも怒られてますから。ただマイナーの度合いが、堀川さんのほうがちょっと上なだけ(笑)。」
堀川:
「『花いろ』でも僕の中にあった“こういうものを作りたい”という漠然とした作品テイストみたいなものを汲みつつ膨らませくれて、1話の初稿からもう、これでOKと。その後の話数も改定稿ってほとんどなくて、あがってくる度にああ納得という感じで。これからシナリオは大詰めだけど、読むのを毎回楽しみにしているんです」