――まずは『花咲くいろは』に関わられることになった経緯をお聞きしたいのですが、おふたりは『AngelBeats!』でも一緒にお仕事をされていますよね?
東地:
「はい。『花いろ』の話はまさにその『AngelBeats!』の作業をしているときに、堀川さんから『お仕事モノの企画があるんだけれども……』と言われたのが最初です。『AngelBeats!』の作業が終わったあと具体的に話を伺ったのですが、舞台やシーンなどの多さから、これはひとりでは無理だなと思い、強力な助っ人をとお願いしたんです。『AngelBeats!』は箱庭的世界観でシーンの多くは学園内。ひとりの美術監督でもまわせる量だったんですよ。でも『花いろ』は、安藤監督のまったく逃げていないこだわりの絵コンテにはじまり、スタッフ全員が攻めの姿勢。普通シリーズものだったら、ここは頑張るけど、ここはちょっと抑え気味にしておこうよというのが多少垣間見られるんですけれども、それがないんです」
平柳:
「『花いろ』は、シーン変わりも多くて抑える場面が少ない作品ですよね」
東地:
「そうなんです。それにすでにあがっていた美術設定を見ると、とんでもない物量になるなと」
平柳:
「僕も『AngelBeats!』の作業が終わるから終わらないかぐらいのときに、『花いろ』の話をいただきました。僕は会社勤めなので、スタッフの得意とする作風やスケジュールにあわせて担当を決めることになります。ただ東地さんと『AngelBeats!』をやらせていただいたとき、もう少しいいものを返せたのではなかいかと、納得できなかった部分もあり、もう一度やらせていただけるならリベンジしたいという気持ちがあったんです」
東地:
「そうだったんですか!? それは知らなかった。僕は堀川さんから、平柳さんにお願いしましたと聞いて、あ、もう安心だなと(笑)。『AngelBeats!』でその実力は分かっていましたからね」
平柳:
「あとは日本の田舎町というか、地方を舞台にした作品というのが大きかったです。山があって自然があって、昔の民家が出てくると。個人的にそういう風景がすごく好きで、時間があればそういう場所に旅行することもある。素直に描いてみたいなと思ったんです」
東地:
「平柳さんは美術監督として他の作品に関わることができたと思うんです。でも美術監督補佐として『花いろ』に入っていただけて、本当にこの作品はスタッフに恵まれていると思います」
――今回は東地さんが美術監督で、平柳さんが美術監督補佐というポジションで作業を進められているんですよね。
東地:
「役職で言えばそうですね。TVシリーズだと平柳さんが所属されている、スタジオ・イースターさんのような背景美術会社に、アニメ制作会社が背景をお願いするということが多いのですが、監督が直に指示を出すわけではないので、監督の意向を反映するのが難しいこともあるんです。それで今回は、ピーエーワークスさんに僕の机を置かせてもらって、安藤監督の意向を汲み取って美術ボード(以下ボード)を描き、平柳さんにそれを渡して背景をお願いするという形をとっています」
平柳:
「それに対してイースターでは、僕を含めた5人のスタッフを中心に『花いろ』チームを結成して、担当しています」
――5人ですべての背景を描かれるのですか?
平柳:
「いや、それは無理なんですけど(笑)。でも本来、5人いればまわるはずなんですよ。『花いろ』は、先ほど東地さんも言われたように普通のアニメと比べて圧倒的に物量が多いので、他のスタッフにお願いすることもあります。ただ東地さんのボードがしっかりされているのと、シーン(場所)ごとに担当は決めているので、作画がブレるということはないですね」
東地:
「そう言われると恐縮しちゃいます。……すみません、もっと早くボード出します!(笑)。でも今回、平柳さんに現場のまとめ役を全面的にお願いしているので、僕としては非常に理想的な形になっているんです。以前は複数の会社に背景をお願いすることもあったのですが、会社ごとにカラーがあり、それを統一する作業がメインとなります。でも今回はその作業が主ではなくなり、更に踏み込んだ作業が可能となりました。あがってくる背景を見てもボードの意図を汲んで使っていただけると感じています。このような形で作品に取り組めるのはなかなかないんですよ」
平柳:
「こちらとしては、東地さんの踏み込んだ背景を見るのがとても楽しみで、もっとこの領域に近づかなくてはと思っていますし、いつも勉強させてもらっている感じです」
――『花いろ』のボードを見ると、ディテールに至るまで細かく描き込まれていますよね。
平柳:
「そうなんです。とても参考になるのと同時に手応えもあります。ポスターやこのホームページのトップに使われているキービジュアルを見たときには、『ああ、このレベルなんだな』と身構えましたけれども(笑)。普段なら、これはキービジュアルだから本編では――喜翆荘(きっすいそう)など――もう少し簡略化されるなと思うんですけど、『AngelBeats!』を体験していますから、本編もこのクオリティなんだろうなって」
一同(笑)
平柳:
「でも、そのボードのクオリティを崩さずに、最後まで持っていくことが背景の仕事ですからね」
――平柳さんのお仕事の進め方というのは?
平柳:
「東地さんとボードなどを見ながら打ち合わせをして、それを他のスタッフにも伝えます。でもそんなに特殊なことはしていなくて、朝出社して背景をひたすら描くだけです(笑)。白箱(*1)ができるとスタッフで見たりしますね」
東地:
「そのときはやはり背景の話になるんですか?」
平柳:
「若いスタッフが多いせいかなかなかそうならないですね。ストーリーとかキャラクターの話が中心です。キャリアが同じぐらいだと背景の話になることが多いんですけど……、本当は背景に踏み込んだ話をしたくてしたくてたまらないんです(笑)」
東地:
「熱いですね(笑)。平柳さんをはじめ、スタッフのみなさんが描かれる背景はボードを越えるぐらいのクオリティのものもあって驚いているんです。本当に美術監督冥利に尽きます」
平柳:
「そう言っていただけると嬉しいですね。東地さんのボードはどれも素晴らしく、このレベルまで追いつかなくてはといつも必死になっているんですよ」
物語の舞台となる、喜翆荘(きっすいそう)のカット。細部まで描き込まれている。