――岡田さんが考える脚本家に必要な資質は何でしょうか。
岡田:
「ナルシストかつ、どM(笑)。脚本家を目指す人って、程度の差はあっても、誰しもが自意識過剰だと思うんです。でも脚本制作の過程には、自意識を傷つけられまくる『ホン読み』がある(笑)。ずらりと並んだ関係者の前で自分のホンを読まれて、一斉に駄目だしをされ、ときには人格否定までされる。しかも、ダメ出しされた意見を、ホンに反映させて直していかなければいけない。Mっ気が強くないと、とてもやっていけません」
堀川:
「ナルシストな人ほど打たれ弱いよね」
岡田:
「言われたことをただ受け入れることが重要なんじゃなくて、どんなに他者の気分が入ってきても、最後まで崩れない『自分の考えの下敷き』を持っていることが大切なのかなと。どんなに当初の意図と違っても、“これは自分が書いたもの”って言えるような、自意識とMっ気のバランスが……って、偉そうに言っていますが、私もいまだにそこで苦しんでます(笑)」
堀川:
「なるほどね。うちの作品では、ずっとシリーズ構成で参加してもらっているけど、岡田さんが各話の脚本家として作品に参加したときは、また違った一面があるのかな?」
岡田:
「う~ん……たぶん、めちゃくちゃ面倒くさい奴だと思う(笑)。各話担当ってシリーズ構成とは違った楽しさがあるんです。自分のシナリオにぐっと集中できるから、色々と勢いあまっちゃうというか……」
堀川:
「今以上に暴れるの?」
岡田:
「今以上って(笑)。でも、それを許してもらえる現場じゃないと難しいですけどね。その点では恵まれてきたと思います。なので私も、自分がシリーズ構成を担当するときには、各ライターさんに思うぞんぶん暴れてほしいと思うようになりました。自分の想定外のホンがあがってきたりすると、ほんと嬉しいですね。「あんたは最高だよ!」とか、興奮しながら読んでます(笑)」
堀川:
「じゃあ『花いろ』も各話ライターに暴れてもらうと」
岡田:
「あ、『花いろ』に関しては半々かな。私が勝手に面白がっていても、背後に恐ろしい人が控えているので(笑)」
――それに『花いろ』で暴れられているのは堀川さんだったりしますよね。
岡田:
「うん、まさに暴れん坊将軍(笑)。でもそれはとてもいいことなんですよ。アニメーション制作という共同作業で、みんなが同じ熱意を持って作るのはすごく難しいんですけど、そのときすさまじい情熱を持った人がいると、全体も少しずつ熱くなっていく。『花いろ』だと、堀川さんの熱意が現場に伝わることで作品のクオリティがあがっていますから」
堀川:
「そう言ってもらえると今後も遠慮しないで暴れられる(笑)。今ふと思ったんだけれども、ライターの仕事って孤独な作業じゃない? シリーズ構成は違うけど、ライターは極端に言えば自分ひとりでゼロから生み出す仕事だと思う。でも『花いろ』は、“仕事モノ”であり、喜翆荘の人たちが織り成す“人との繋がりのドラマ”でもあるんだよね。ライターは自分の経験と言葉でチームワークの仕事のドラマを語ることができるかなって」
岡田:
「大丈夫ですよ。『花いろ』のライターさんは全員アニメ制作会社出身ですから。むしろ私が会社、というか一般的な仕事の実情を一番知らない。ほかの方たちに比べて、ピーエーワークスさんは知っているけど(笑)」
堀川:
「ちなみに岡田さんが仕事を選ぶ基準って何かあるのかな? もしくは得手不得手とか」
岡田:
「う~ん……その作品に私の居場所があるかどうか、ですかね。もちろん、企画自体を面白いって思えることが前提なんですけど……なんていうんだろう。この作品をやりたいって強く願う誰かが、私のどこを欲してくれているか理解できた時に、初めてチャレンジしてみたいって思う。逆に、どうして私なのかってことが理解できないと難しいですね。そういう意味で得手不得手とかは考えないようにしてます。「この作品を岡田が書くと面白い」って信じてくれている人がいるのなら、迷わずに楽しんで書きたい」
堀川:
「だからこんなに売れっ子なんだ(笑)。でも、やっぱりそれは岡田さんの力があるから。岡田さんのシナリオの魅力は人生経験の引き出しをいっぱい持っていることだよね。それが書くことの肥やしになっていると感じるんですよ。同じような経験をしようと思ってもできるものじゃない。人生経験から生み出されるセリフには力があって、シナリオを読んでいても、あ、こういうひと言って経験からじゃないと出ないよねって。あと緒花、皐月、スイのドラマに岡田さんの色が濃く出ていると思う。四十万家の女たちは僕の想像を超えて大きなドラマになったんですよ。この家族という要素が、『花咲くいろは』のドラマに厚みを与えてくれていると思うんです」
――それでは最後に『花いろ』を楽しみにしているファンの方にメッセージをお願いします。
堀川:
「『花いろ』は、これまであまり見たことのないアニメであり、作っている側が言うのも語弊があるけど、作っていてとても気持ちいい作品。それをファンの方にどう受け取ってもらえるかは分からないけれども、この作品を一番作りたいと思っている人間が、不安に思ったら最後まで転がらないと思うので。岡田さんの本をはじめ、あがっているものに満足していますし、この勢いで最後まで走り続けますので楽しみにしていてください」
岡田:
「『花いろ』は、ピーエーワークスでしかできない作品だと思います。控えめにみえて恐ろしく大胆で、スタッフみんなの熱意が画面からあふれてくるような、すさまじい熱量のある作品です。そのシリーズ構成に選んでいただいたことが本当に嬉しい。ピーエーワークスが好きな方にも、どうでもいい方にも(笑)、ぜひ見てもらいたいですね」