インタビュー花咲くいろは

花咲くいろはスペシャルインタビュー第16回

――監督が『花咲くいろは』の企画をお聞きになったのはいつ頃ですか?

安藤:
実際、具体的に企画を煮詰めて行きましょうと動き始めたのは、『CANAAN』が終わってからですが、一番最初のイメージを堀川さんから聞いたのは、『true tears』の作業をしていた頃です。けっこう記憶も曖昧ですが(笑)。最初に聞いた内容は、お仕事モノで、運送業だったかな? 少女が仕事を前向きに頑張る。仕事がらトラブル(アクション)もあるけど殺伐とはしない。イメージは近未来だけれども、舞台は現実に根ざしたような、だったかな?(笑)。できれば舞台は北陸でということでした。北陸というのは『花咲くいろは』まで残りましたね。あとは観た人が、前向きになれるような明るい作品にしたいというのも変わらないかな。

――それをお聞きになったとき、どのようなイメージを持たれましたか。

安藤:
ちょうど少し軽めの作品がやりたいなと考えていたところだったので素直に面白そうだなと思いましたね。内容に関しては、仕事道具は箒じゃないでしょうから(笑)、車とか機械系だとオイルの匂い漂う少し硬質な無骨なイメージなのかな……位でしょうか最初のイメージは。
まあ、オリジナルなんで話し合っていくうちに外側というか器は色々変わっていくので、みんなが納得したベストの形になるよう 、あまり最初から具体的なイメージは抱かずに、作品の器は広く、柔軟に、ただし根っこの部分は揺らがないように、堀川さんを中心にシリーズ構成の岡田さんやプロデュ―サーの方々と少しずつ企画を煮詰めていきましたね。

――派手なアクションのある『花咲くいろは』も見て見たいです。

安藤:
『花いろ』ではいらないと思いますよ(笑)。僕自身もアクション物じゃないことが、『花いろ』という作品に惹かれたところもあるんですよ。非アクション物をできる機会なんて中々ないかなと思いましたから。慣れないジャンルですが、程よい緊張感と新鮮な気持ちで『花いろ』に取り組まさせてもらっていますね。
最初は、企画が「温泉旅館モノ」という形に固まり始めた時は、まだ僕の中ではピンときて無かったんですよ。「旅館モノ」って、観たことは無くてもTVドラマで昔から色々な作品が存在する定番のジャンルですし、しかもアニメでやるには地味に大変そうだなぁって。あ、でもそういう派手ではない部分を真面目にコツコツやるということでは「旅館モノ」ってジャンルはピーエーワークスには向いてるかもとはちょっと思ったかな。
それから仲居さんの二部式という上下セパレートになってる作業着のビジョアルが僕の中ではけっこう新鮮で、その二部式から旅館モノにたいしてプラスのイメージが大きく膨らみましたね。
“和風テイストの入った「青春モノ」”というような、昔観た好きな邦画のイメージがそこには確かにありました。自分の中でスイッチが入ったというか、素直に観てみたい、作ってみたいなと思いましたね。

――実際に作業をされていて難しいと感じる部分はどこでしょうか。

安藤:
10代が主役の話なので若い人が観て楽しめるフィルムにしたいと思っているのですが、10代のころの気分を思い出すのが、なかなか難しいですね(笑)。
まぁ、真面目な話としては、物語が静かにキャラクターの心情や行動で動いていく、その見せ方に苦労しています。物語の中に刺激的な事が少ない分、観ている人が退屈にならないよう、全体のリズムというか、テンポにはかなり気を使っています。
あとは空気感でしょうか。これに関しては、美術、作画、撮影、色彩など各セクションのスタッフが『花いろ』の良い意味での緩さと穏やかさいうか、心地よいフィルムを目指して 、その空気感を画面に定着させるために、それぞれに工夫をこらして、かなり苦労して画面を創ってもらってます。

――アニメ業界を目指されたきっかけは何だったのでしょうか?

安藤:
小さい頃からマンガやアニメ、そして絵を描くことは普通に好きでしたね。ただ漠然と“何かを作る仕事”をしたいなとは思っていたかな。その後、中高校生の頃になると当たり前のように映画とかに興味を持ちだして、世間的にもビデオレンタルなんてのも始まったあたりで、新旧、洋邦、出来不出来問わず(笑)浴びるように映画を観ていましたね。当時は感じなかったんですが、あの頃に観たものが本当に今の自分を形作っていると思います。そういった流れから自然に映像業界に入ってフィルムを作る仕事に携わってみたいと思うようになりましたね。

――なぜアニメを選ばれたのですか?

安藤:
当時(80年代前半)アニメーション業界が映像業界で一番若くて活気があったんですよ。偉大な先人達の、いちばん脂ののっている作品がリアルタイムで観れましたから。それにたいして映画業界は洋高邦低で、邦画も元気がありませんでしたし、ゲーム業界の方は、凄い勢いで出てくる少し前かな。それこそ「未来はココだ!」と思えるぐらい、10代の少年にとって、アニメーション業界はとても輝いていたんですよ(笑)。少なくとも僕にはそう見えました。それにシンプルに鉛筆と紙があれば仕事はできる、なんて安上がりなんだろうって甘い考えもあったかも(笑)。映像関係の仕事の中で、自分に一番向いていると思ったのがアニメーションだったんです。
アニメーターとして仕事をするようになってからも、絵を描いているという気持ちもありますが、それ以上にフィルム作りに参加しているという気持ちのほうが大きかったですね。

――最初から演出、監督への興味があったのでしょうか?

安藤:
最初からそういうのは、ないですね。作画としての仕事をこなしていくうちに少しずつ演出に対する興味が膨らんでいったかんじですよ。フィルムを創る工程に広く携われるところに惹かれたのかな。ただ演出方面に進んでからはアニメーターとの両立は難しいので、原画は仕事としてはやってないですね、もう10年? 近くかな。そう考えるとあっという間だなぁ、怖い怖い(笑)。
もっと器用に出来ればよいのですがなかなか自分にはハードルが高くて(笑)、仕様がないですね。よくアニメーターと演出も両方巧くやられて、きちんと両立されている方もいますが、本当にすごいなと思います。尊敬してしまいますね。