――石井さんはメインアニメーターとして『花咲くいろは』に参加されていますが、そもそもアニメーターを目指されたきっかけは何だったのでしょうか？

石井：
やはり一番はアニメが好きだったということですね。子供の頃は『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』など初期のスタジオジブリ作品をよく見ていました。あと兄もアニメが好きで、アクションモノや格闘モノなど男の子アニメもよく見ていたんです。その中でも特に印象に残っているのが『AKIRA』。緻密な描き込み、キャラクターの動きなどすべてが衝撃的でした。

――その頃からアニメーターを目指されていたんですか？

石井：
アニメーターになろうと思ったのは中学生のときです。もともと絵を描くことが好きで、小さい頃は絵画を描くようなアーティストになりたいと漠然と思っていたこともあったんですよ。あとは美容師さんという夢もありました（笑）。ただ絵を描いているうちに、自分が描きたい絵の方向性は、漫画やアニメだよなって思うようになって……、それで一時期は漫画家を目指していたんです。ただ漫画のストーリーを最後まで作り上げられる自信がなくて。設定を考えるのはとても好きなんですが、漫画を完成させたことがないんですよ。自分の興味のある話だけ描いて終わりみたいな（笑）。
そんな時アニメーターになろうと後押しをしてくれたのは、TVアニメの『NINKU -忍空-』でした。キャラクターが空を飛んだり、縦横無尽に動いたり「アニメってこんなに絵が動くものなんだ！」と感動して、私もこういう作品を作りたいと思うようになったんです。

――『花咲くいろは』にはどういう経緯で参加されることになったのでしょうか？

石井：
安藤さんが監督された『CANAAN』にも参加させていただいたのですが、ちょうど後半戦が始まったときに堀川さんから、「オリジナル作品があるんだけれども次もどうですか？」と声をかけていただいたんです。スタッフは、監督が安藤さんでキャラクターデザイン・総作画監督が関口さん。私としては安藤さんの作品にもう少し関わってみたいという想いがあったのと、関口さんとは私が新人の原画マンの頃からのお付き合いなので、少しは信用していただいているかなと。それでふたつ返事でお引き受けしました。

――実際に作業をされていかがですか？

石井：
『CANAAN』のときは11話のリャン・チーのアクションなど、かなりハードな話数の作画監督を担当したのですが、すごく自由にやらせていただいたんです。もしかしたら黙認だったかもしれないですけれども（笑）。次どうなるんだろうとワクワクしながら描いていました。『花咲くいろは』は『CANAAN』と比べてアクションは少なく、そんなに派手なシーンもないのですが、『CANAAN』に通じるところはあります。アクション作品だったら銃撃戦になるシーンで、皆が仕事をしている。仕事場が戦場であり、仕事や日常芝居でキャラクターを動かすんですよね。
私自身、アクションを描くのがすごく好きなんですけれども、地に足を着けたアクションのほうがいろいろとアイディアが出るんです。日常を題材としたアクションなら私もできるかなと。厨房などはまさに戦場といった雰囲気ですからね。

――なるほど。でもキャラクターの雰囲気は『CANAAN』とは全然違いますよね。

石井：
そうですね。個人的な意見ですけれども、今まで関口さんの描かれるキャラクターは、男性的で骨太な、どこか少年漫画なイメージが強かったんです。『CANAAN』はまさにその最たるもので、筋肉質なお姉さんたちがメインですからね。でも『花咲くいろは』のキャラクターたちは少女マンガっぽい。それはホホブラシがあったり、原案が岸田メルさんだったりすることが大きいのですが、描いていて『CANAAN』と違う楽しさがありますね。

――描くのが難しいキャラクターは誰でしたか？

石井：
最初の頃は緒花の髪型すごく難しくて……、うまく髪型を描かないと緒花に見えない（笑）。今は、どの辺にパーマの山を作ったら緒花に見えるのかなど、自分の中で緒花的記号を作って描いているので、慣れてきた部分はあります。あまり肩に力を入れず可愛らしく描くことを心がけていますね。
あと意外と大変なのが結名。緒花のパーマよりも結名のカールのほうが難しいですね。変なカールを描いてしまうとソフトクリームみたいになってしまうので、縦ロールっぽい記号でうまく髪の毛に見せるのが難しいですね。たぶん他の各話作画監督さんもそう思っていると思います。それに、そのふたりは若いキャラクターで、下まつ毛を描くことが多いんです。緒花と結名がアップになったとき、かぶらないよう、結名を少し黒目がちにしたりなど工夫しています。

第４話より。スタッフから描くのが難しいといわれる２人。結名の髪型はカールが多く、どの角度からのカットも大変そう。

――先ほど職場は戦場というお話がありましたが、作画の現場も普段は戦場だと思います。そんな中で石井さんの気分転換の方法はなんですか？

石井：
散歩をすることですね。煮詰まったまま描く絵はあまりよくなくて、１、２時間散歩をしてリフレッシュしてから仕事に戻るようにしています。どうしても進まないときは、今日はこれでおしまいと、一度リセットすることもあります。
あとは小説を読むことかな。ミステリーやホラーをよく読みますね。あと家族を題材とした話も好きなので、『花咲くいろは』は毎回楽しみにしているんですよ（笑）。