――まずはアニメーション制作において、撮影とはどういう作業をされているのかお聞かせください。
並木:
アニメーターさんが描かれた動画(セル画)や、美術さんが描かれた背景を合成するのが主な仕事です。セルと背景が揃ったら、タイムシートの指示に従って1本の映像にしていくのですが、その過程でキャラクターの顔にホホブラシの効果を入れたり、瞳にグラデーションをつけたり、シーンにあわせたパラ(*1)やフィルターを加味していきます。
――撮影は何人の方が担当されているのでしょうか?
並木:
1話や2話の頃は、最初ということもあり大人数でやっていたのですが、最近は自分を含めて5名で担当しています。コンテを元にシーンを分けて、スタッフの得意不得意を考慮しつつ作業をしてもらっています。
――すべてデジタルで作業されていると思うのですが、アナログ時代と比べて楽になりましたか?
並木:
私自身はデジタル時代からこの業界に入ったので、アナログ時代の苦労を実際に体験しているわけではないのですが、『花咲くいろは』はデジタルでなければ実現が難しかったこともいくつかあります。特にホホブラシはそうですね。アナログであれば、シーンにあったホホブラシのセルを1枚1枚描かなくてはいけない。デジタルであれば――T2スタジオでは「Adobe After Effects」というソフトを使って作業しているのですが――頬とホホブラシの境界をボカしてくれるプラグイン(*2)があり、追加のセルを必要としないんです。
――デジタルに切り替わってからは、そういったプラグインをはじめ、ソフトなどが日々進化していると思いますが、社内で勉強会などを開かれることはあるのでしょうか?
並木:
T2スタジオでは各自が触りながら勉強するというスタンスですが、お互いに情報交換をしたり、社内でスクリプト(*3)を開発したときには簡単な説明会が開かれたりすることもあります。ただ根本となるのは、フィルムカメラを使った撮影だと思うんです。デジタルでできることは日々増えており、ホホブラシをはじめ、さまざまなオーダーに対応できるようにしなくてはいけないのですが、撮影の基本を知らないといい映像にはならない。
基本があってはじめてデジタルの利点が活きてくるかなと。
――ソフトは道具であり、大切なのは使う人の技術やセンス、経験ということですね。
並木:
そうですね。アナログ時代は、どちらかと言えば職人的な、経験を積まないとできない部分もあったと思うのですが、デジタルになるとソフトの使い方を知っていれば誰でも撮影作業はできる。でもそれでは素材を繋ぎ合わせただけなんです。これはほかのセクションにもあてはまると思うのですが、基本をしっかりと身につけたうえで、デジタルを使いこなせるかが重要なんです。そのため基本となる技術を継承していくというのも大切な仕事です。デジタルになって撮影の負担も徐々に増えていますしね(笑)。
――確かにそうですよね。デジタルに移行してからは撮影の時間的制約も軽減されたので、スケジュールのしわ寄せが撮影や編集に来ることが多いのかなと思います。
並木:
アナログ時代は1コマ1コマ撮影しなければならなかったカットも、デジタルであればすぐ撮れるようになりましたからね。デジタルの恩恵というのは大きいですが、スケジュールもタイトになりがちです(笑)。
(*1)パラ…パラフィン紙の略。セルや背景の上に色つきのパラフィン紙を置くことで、画面にさまざまな効果を出す。
夕方のシーンならばオレンジのパラフィン紙を置くことで、画面全体が夕焼けっぽくなる。
(*2)プラグイン…ソフトウェアに機能を追加する小さなプログラムのこと。
(*3)スクリプト…ソフトウェア上の作業を簡単に行える簡易プログラムのこと。
T2スタジオの仕事風景。シーンごとに担当を分け、それぞれが作業をしている。
「Adobe After Effects」で作業をしているところ。ここでセルと背景が合成され、細かいエフェクトなどが追加される。